王配の愛

むかしむかしあるところに飼い殺しの王配がおりました。王様は王配が城にいてくれるだけでよかったのでふたりはとても幸せに暮らしていました。 　ある日とつぜん王配が農業に目覚めました。庭師や学者の元へ通ってなにやら熱心に指導をうけています。やりたいことができたのならそれはそれでよいだろうと、王様はにこにこして見守ります。 　にわかに王配がお城の外へ旅行に行きたいといいだしたので、これにはさすがに王様も渋い顔をしました。王配は上手に王様を説得し、毎日手紙を出すことを約束して旅立ちました。 　王配は各地の果樹園の視察や野生の樹木の採取に熱心に取り組みます。王様は王配から毎日手紙が届くのが心待ちになりました。 　国中を巡った王配はどっさり荷物を持って王城へ帰還しました。王様のよろこびようといったらありません。毎日手紙をやりとりしていたものですからお互いのことはよく知っていましたが、それでも話の種は尽きませんでした。 　まもなく中庭にぽつんと小屋が建ちました。小屋の傍らにある木を切り倒し、土を耕し、柵を作り、囲いの上には鳥よけの網を張ります。王配は朝早くから元気に毎日中庭へ向かい、日が暮れると泥だらけの格好で出てきます。 　王配がおかしなことをはじめたぞと、お城の人々が囃したてました。けれど王様も王配もちっとも気になりませんでした。それというのも王様は王配が楽しそうにお城で暮らしていれば満足でしたし、王配は今も昔もずっとしたいことをしてきたからです。とはいえ王様も王配が何をしているのかは気になります。それとなくたずねてみましたが、王配の巧みな話術でそらされてしまいました。がっかりした王様に、王配は完成したら必ず一番に見せると約束しました。 　月の色が移り変わり、数年たったある緑の月のことでした。王配は王様を昼食に誘いました。柵の中に用意してあるというので、王様はわくわくして招かれました。 　中には桃の木が立ち並んでいました。どの木にも美味しそうな桃がたわわに実っています。なかでもひとまわり大きな木の下へ連れて行き、王様に好きな桃をとってほしいと王配がいいました。王様は少し手を伸ばしたところにひときわ色づいてなっている桃をもぎました。桃は一口かじると豊富な汁が実からあふれだし、口の中に花蜜のような甘みが広がります。すっかり感心した王様はこれはなんという桃かとたずねました。実は今王様が食べたのはリネク桃でした。リネク桃は元々酸味の強い品種でしたが、国中に生えるたくさんのリネク桃の中から甘味のある木を選び、改良し、様々な土を試し、ひときわ甘くなるよう作り出されたのです。それというのも昔ふたりがまだ子どもだった頃、甘い桃を食べていたく感激した王様の話を王配が覚えていたからです。いつか王様に甘くておいしい桃を食べさせてあげたいという王配の夢はめでたく叶ったのでした。 　この甘いリネク桃は国中に広められ、いつしか『王配の愛』と呼ばれるようになりました。恋人達が愛の告白をするとき、求婚をするとき、愛情の証としてこの桃を心をこめて贈るのです。

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