兄弟
 ヴァイルとがいつものように手をつないで、タナッセのところへやってきた。
「タナッセはのきょうだいなんだよね」
「……、誰かに何か言われたのか?」
「ははうえとヴァイルのちちうえはきょうだいだって、ははうえはあにうえなんだって。それでね、あにうえってなにってみんなに聞いたの。タナッセはははうえの子どもでしょ? もははうえの子どもなんだからきょうだいなんだよ。あとね、えと、きのうお城にきょうだいが来てね、いっしょにあそんだの」
 それきり黙ってもじもじとしている。ヴァイルはとタナッセの顔を交互に見ている。
「……それで、私に言いたいことがあるんだろう」
「あのね、あのね…………あにうえってよんでいい?」
 城にきた兄弟とはおそらくたちの年に近かったため引き合わされた貴族の子弟で、遊んでいる最中にその弟が「兄上」とでも呼んだのだろう。
 血のつながりはないが、リリアノの養子になった以上タナッセとは兄弟なのは間違いない。幼くして母を亡くしたはリリアノを本当の母と思って慕っている。
「あにうえがだめなら、にい……にいさまならいい?」
 まなじりを下げて、懇願するようなの視線がタナッセに注がれる。ヴァイルからも応援するように同じく熱心な眼差しが向けられる。
「今まで通りでいいだろう。何も変えることはない」
「じゃあにいさん」
 タナッセはため息をついて首を振る。はヴァイルの顔を覗きこんだ。
「……えーと、ねえヴァイル、ほかになにかあった?」
「にいちゃん」
「にいちゃん!」
「どこで覚えたんだ……」
「ちゅうぼうの人が言ってたよ」
「興味本位でどこにでも首をつっこむんじゃないぞ。厨房では火を使うのだからお前たちみたいな子どもは危ない」
「だいじょうぶだもん。ねっ」
「うん! あぶなくなかったよ。おいしかったよ」
「昨日夕食を残したのはそれが原因か。間食は控えろと……」
「お兄様はどうだい、
 タナッセが固まる横をすりぬけて、悪戯っぽい微笑みをうかべたユリリエが現れた。タナッセには魔物の笑みに見える。
「可愛い弟がお願いしているというのに、無下に断ってしまうとはなんて大人げないんだろうね。ねえお兄様?」
「お前と兄弟になった覚えは……っ」
「おにいさまー」
 ぽす、とがタナッセにしがみつく。離そうとした手が止まってしまった。頭をぐりぐり押し付けて上着の裾をぎゅっとにぎり締めるの手はとても小さくて、温かだ。ヴァイルも同じようにタナッセに抱きついてきた。こちらは面白がっての真似をしたようだが、やはり同様にしがみついて離さない気らしい。
「こんなに懐いているというのに、薄情なお兄様だな」
「はくじょうはくじょう」
「はくじょうー」
 三対一でタナッセが勝てるはずがなかった。
 この日からしばらくの間、タナッセはから「おにいさま」「にいさま」「あにうえ」「にいちゃん」と気分によって呼ばれるようになった。「にいちゃん」では言葉遣いが悪いと注意すると今度は「おにいちゃん」に変わったのだった。
【戻る】